ガラスの靴を振りかざして6_緑 (ページ16)

今日:160 hit、昨日:175 hit、合計:164,332 hit

16 ページ16

＊

「言い方がキツくなってごめん。心配してくれるのはありがたいけど、まずはこのあとの生放送に集中してください。今日のプロモーションのために駆けつけてくれたファンの人の数、もうすでにとんでもないことになってるんですから。……いつものカッコよくてあざとくてキラキラしてるアイドルの阿部さんでいてください」
「うん…もちろんそれは分かってるし、ありがたく思ってるよ」

唇を尖らせ、けどさ、と続けようとした彼の言葉をわざと遮った。

「ここで私が履歴書を見せたら、阿部さんは絶対に警戒するでしょ。だからダメなの。もし万が一、『阿部ちゃん』が一般観覧のファンの人たちに向かって睨みでもしてみなさいな、私がキレるからね。マネージャーとして」

どんな事情があろうとも、アイドルという職業である以上は阿部さんにそんな態度を取ってほしくない。

一瞬だけ横目に見てはっきりとそう伝えると、阿部さんが口をへの字にしてムスッとした顔のまま黙り込んだ。
これは喧嘩とは違う。
だけど常に糸が張ったような、ピリついた空気になったことは変わりない。
私たちは良く似ている。
こうなってしまえば、あとは意地の張り合いだった。

それっきり、私たちが会話を交わすことはない。

車のエンジン音だけが静かに響く車内。
このまま流れに乗って湾岸線を十五分も走らせれば、次の現場に到着する。

「それではご登場いただきましょう、先日ニューシングルがリリースされたばかりのSnowManから、阿部亮平さんが来てくださいましたー！」
「こんにちはー！SnowManの阿部亮平です。本日はよろしくお願いしまーす！」

軽快なアナウンサーさんの掛け声に合わせて下手から阿部さんが現れると、一帯を割れんばかりの黄色い歓声が包み込んだ。
バレンタインを意識してスタイリストさんが用意したベージュのロングダッフルコートにホワホワとした素材のブラウンのオーバーサイズニット、グレーのタックワイドパンツを身に纏い、それにあわせて髪型もアンニュイな感じで緩くウェーブがかかっている。
良い意味でいつもの阿部さんらしくない容姿に、文字通り会場は湧いた。
というか、軽く混乱すらしている。

無数に振られる手とうちわ。
ある人は興奮気味に頬を染め、ある人は胸や口元を抑えながら目を輝かせている。
奥の方まで続くその光景を見た阿部さんが驚き、ふんわりと顔を綻ばせて手を振り返せば、それを受けてさらに歓喜の悲鳴が折り重なった。

まさに圧巻。