ガラスの靴を振りかざして6_緑 (ページ17)

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先ほどまでの重苦しい空気が嘘のように、阿部さんはいつもと寸分違わない爽やかな笑顔を振り撒きながら生放送に臨んでいる。

彼が登場したのは番組の前半と後半の二回に分かれるゲストコーナーの後半パートで、ありがたいことにメイン的な扱いのまま放送終了までの二十分程度を盛り上げる予定だ。
広場のように開けた特設会場。
そこに集まったたくさんのファンに見守られながら、新曲のプロモーションと事前に番組宛に寄せられた質問に答えていくというもの。
デビュー当時からお世話になっている番組で、グループの新曲が発売されるたびにメンバーが交代で出演させてもらっている。
プロモーション活動の一環として阿部さんが呼ばれたのは、今回が初めてだった。

駆けつけたファンの人数はあれからさらに増え、聞いた話では生放送の二時間前の段階で広場に収容できる上限数に達したとのこと。
慌てて会場の柵を広げるなどの措置を取ったものの、それでも入りきれずに泣く泣く諦めるファンもいたらしい。

アテンドをしてくれたADさんに「さすがです」と言われてありがたく思う反面、今日に限って手放しに喜べないこの状況が憎い。
とにかく今は、阿部さんにとっても詰めかけた阿部担にとっても、何事もなく無事に終わりますようにと祈るしかなかった。

番組は順調に進行していく。
歓声はだいぶ落ち着いたものの、一挙手一投足、阿部さんが何かをするたびにファンからは「可愛いー」だの「あざといー」だの、彼を体現する言葉が溢れるように飛び交っていた。
周囲を見渡したMCのアナウンサーさんが「知ってはいましたが、やっぱりすごい人気ですねぇ」と感嘆し、それに対して阿部さんが「とんでもない」と謙遜しながらはにかめば、また僅かにそよめく広場。

そんな様子を少し離れたところで俯瞰的に眺めていると、実は阿部さんと上野動物園のパンダの本質は同じなんじゃないかと思えてしまう。

さすがにそれはないか、なんて自分の想像を鼻で笑っていた時だった。

「お疲れ様、Aさんいるって聞いて来ちゃった」

メイクさんやスタイリストさん、テレビ局の関係者と一緒に横並びになりながら壁にもたれかかっていると、私の右隣の隙間に体を滑り込ませるように誰かが入ってきた。

「あ、吉野さん」

親しげにそう呼んだ相手は、一年ほど前にこの局にADとして中途採用された例の友人だ。