ガラスの靴を振りかざして6_緑 (ページ18)

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肩の辺りで綺麗に切り揃えられた髪を揺らしながら、小さな声で周りにも「お疲れ様です」と会釈する吉野さんのために少しだけ隙間を広げてあげる。
彼女の手には有名なコーヒーチェーン店のテイクアウトカップが握られていて「休憩中？」と聞けば「そうなのよ〜」とにこやかに頷いた。

数ヶ月前。
出会った当時はまだお互い新人ADと新人マネージャーという立場だったが、気が付くと所謂「しごでき」の彼女の方が先に出世していた。
冬の番組改編で晴れてディレクターに昇進した吉野さんは、今現在深夜枠の番組を担当し、日々その有り余る才能を爆発させているとのこと。

人気お笑い芸人をMCとして迎え、デビューしたばかりのまだまだ個性の薄いアイドルやタレントが体力や知力を駆使しながら様々な企画にチャレンジし、最終的には自分の強みを見つけていくという熱血成長バラエティ。
新人らしい彼らの直向きな姿と共感性の高さから、関東ローカルで深夜帯の放送枠にも関わらず、放送直後には毎週のようにトレンド入りするなどSNSでも話題になっている。
私も何度か観た事があるが、30分番組とは思えないほどエネルギーに溢れ、視聴者側もなかなかにカロリーを使う番組だった。
もちろん、良い意味で。

年始には彼女の昇進祝いと新年会を兼ねて、二人だけでご飯にも行った。
私がこの業界に入って日は浅いが、そこで出来た唯一の、そして同年代の友人の久々の登場に、気付かないうちに強張っていた肩の力がフッと抜けていく。

「お正月以来だけど元気してた？」
「おかげさまで元気にやってるよ。免許も取ったし、ようやくマネージャーとして独り立ち出来たかなって感じ。吉野さんはどうなの？順調？」
「順調も順調よ〜。番組の視聴率も話題性も深夜帯としては文句ないし、こっちは虎視眈々と早い時間帯の枠の特番でも組んでもらえないかって狙ってるところ」

リスのような愛くるしい顔に似合わず、ニヤリと不敵な笑みを浮かべながら話す吉野さんの目は本気だった。
彼女はやると決めたらやるタイプだ。
コーヒーを豪快に煽り飲み下すと「今は内緒にしててね」と可愛らしくこちらを見上げてくる。

吉野さんの好奇心に駆られたくりくりと大きな瞳は、メンバーの佐久間さんを連想させた。
臆することなく突っ込んでいき、周りを巻き込み、そして何でも楽しんでしまう性格も、切込隊長である彼にそっくりだ。

そのせいか、初対面の彼女に対して妙な親近感しかなかった。