ガラスの靴を振りかざして6_緑 (ページ19)

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「吉野さんいつも楽しそうだなぁ」

彼女といると、こちらも自然に笑顔が増えた。

「やりたい事やらせてもらってるからねぇ。もちろんプレッシャーだってハンパないけど、関わってくれた新人アイドルちゃんとかタレントさんが、将来これをきっかけに大きく羽ばたいてくれたら嬉しいなって思うと、自然と頑張るぞー！って気持ちになるのよ」

もはや親心みたいなものだと彼女は照れくさそうに言い、また飲み物を一口。
昔だったら「そういうもんなのか」と他人事に感じていたはずの私も、この仕事に就くようになっていつの間にか、彼女の言葉がなんとなく理解できるようになった。

親──なんてたいそう立派な立場ではないけど、例えば、阿部さんやメンバーの人たちを見ていると、私も吉野さんと同じ気持ちになる。

たくさんのファンに囲まれる彼らもまた、血の滲むような努力を重ねてきた紛れも無い功労者なのだ。
デビューしてから数年で彼らの知名度は爆発的に世間に知れ渡り、良くも悪くも周囲を取り巻く環境は劇的に変化した。
かくいう私もその爆発的な飛躍を遂げている最中の彼らに出会いファンになった一人であり、興味本位で現在の9人のSnowManへと至るまでの経緯や情報まで掻き集めていた時期もあったから、その待遇の変化も大体の想像はつく。

彼らをよく知らない人は、キラキラと輝く笑顔やパフォーマンスを見て上澄みだけで知ったような気になり「アイドルなんてくだらない」だの「中身のない職業」と簡単に否定し揶揄するが、実際はそんな言葉で括れるほど単純、単調な仕事ではない。

世の中の全員に理解されることなど無理だとは分かっていても、だからこそ、彼らにはもっと有名になって欲しい、いけるとこまでいって欲しいと心から願っているし、そのために自分が出来ることは何でもしようと誓っている。

親心。
そうか、それだ。
今の私の原動力は、彼らに対する尊敬と親心だ。
吉野さんの言葉が、ストンと腑に落ちた瞬間だった。

「私がもう少し偉くなったら、ドヤ顔でAさんに企画書持って出演交渉しに行くからその時はよろしく」

吉野さんがプロデューサーに昇格したのはつい最近のことなのに、彼女はそれに満足することも驕ることもなく、もうすでに半年先、いや一年も二年も先のことを見据えているようだ。

軽快な口調で、だけど決して冗談で済ませようとしていない、挑発的な眼差しに喰われそうになる。