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「吉野もかなり心配してたので、落ち着いたら連絡してあげてください」
「ええ、それはもちろん」
なんならすぐにでも、と言いかけたところでADさんが急にモジモジし始めた。
快活そうなその見た目からは想像し難いが、ちょっと面白い。
「それで、あの…大変申し上げにくいんですけれども…」
「どうしました？」
背中を丸めてやけに恐縮している姿は、まるで悪いことをしたような、怒られるのを待つ子供のようだ。
おそらく彼は現場でも上司に掛け合う時にこんな感じなんだろうな、というのがなんとなく想像できた。
使う人間を選ぶ仕草だが、彼の場合はどこか憎めない感じがあって大変良いし、やっぱりちょっと面白い。
「こんな時に何言ってるんだというのは分かっているんですけども…実は僕、このあとも仕事がいくつか控えていまして…ひと足先に、局の方に戻らせていただけないかと……」
「え？！」と思わず声をあげると、非難されると思ったのか彼の丸めた背中がさらに縮こまった。
もちろんこちらにそんなつもりはなく、単純に驚いただけである。
「ぜんぜん戻ってください！というかそうですよね、ここまで来ていただいたのもその場の流れっぽかったですよね。私の方はこの通りピンピンしてますし、あとは診断書もらうだけなんで！……むしろお仕事間に合いますか？」
「は、はい。仕事の方は今から戻れば間に合うんですが…なんかこちらの都合ばかりでAさんには申し訳ないなって…」
代わりの人間は誰かしら手配しますので、とドキマギしながら話すADさんの目元に刻まれた薄っすらとしたクマが、彼の仕事の大変さを物語っている。
パワフルな吉野さんが近くにいるせいで忘れがちだが、ADという職業は「何でも屋」と言われるほど仕事量も多岐に渡り、どの現場でもとにかく忙しそうにしている姿を見かけていた。
離職率も高く、体力的にも精神的にもキツイと聞く。
気が付かなかったとはいえ、そんな立場の彼をこんな所にまで連れ出してしまったことを酷く後悔した。
「とんでもない！仕事は仕事なんですから気にしないでください。それに自力でそちらに戻れるので代わりの方は寄越さなくて大丈夫です」
「でも、」
「ホント、大丈夫です」
それでもまだ何か言いたそうにしていたので、
「その代わりタクシー代は請求させてください」
あえて真面目な顔でそう言うと、ADさんは一拍置いてから「もちろんです」とようやく気が抜けたように笑ってくれた。
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作者名：泥濘 | 作成日時：2024年3月6日 17時
